食品工場を建てるときに知っておきたいHACCP対応|建物計画で考える8つのポイント

食品工場の新築や建替えを検討するとき、よく聞かれる言葉の一つが「HACCP対応」です。

「食品工場ならHACCP対応の建物にしなければならない」

「一般的な工場とは何が違うのか」

「どこまで建物側で対応すればよいのか」

このような疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

HACCPは、原材料の受入れから製造、包装、出荷までの工程を整理し、食品にどのような危害要因があるかを分析したうえで、重要な工程を継続的に管理していく衛生管理の手法です。

2021年6月からは、原則としてすべての食品等事業者に「HACCPに沿った衛生管理」が求められています。

ただし、ここで知っておきたいのは、「HACCP対応」という一つの建築仕様が存在するわけではないということです。

製造する食品や工程によって、必要な衛生管理は異なります。

そのため食品工場の建物には、その工場で行う衛生管理を、無理なく継続できる環境をつくることが求められます。

この記事では、食品工場を新築・建替えするときに建物計画の段階から考えておきたい8つのポイントを紹介します。

1.「HACCP対応工場」とは何かを最初に整理する

HACCPという言葉を聞くと、「決められた材料を使えばHACCP対応になる」「エアシャワーや高性能フィルターを設置すればよい」と思われることがあります。

しかし、それだけでHACCP対応になるわけではありません。

HACCPでは、例えば、

  • 加熱温度を管理する
  • 冷却時間を管理する
  • 原材料から製品への汚染を防ぐ
  • 異物混入を防止する
  • 清掃・洗浄方法を決める
  • 記録を残して管理状態を確認する

といった衛生管理を、実際の製造工程に合わせて行います。

一方、建物については、食品衛生法に基づく施設基準などへの適合も必要になります。

そのため食品工場では、「HACCPによる衛生管理」「食品衛生法上の施設基準」「実際の製造工程」の3つを切り離さずに考えることが重要です。

建物だけを「食品工場仕様」にするのではなく、どのように食品を製造し、どこに汚染リスクがあるのかを理解して建物を計画する。これが食品工場設計の出発点です。

2.清潔区域と汚染区域を製造工程から考える

食品工場の計画で最初に考えたいのが、衛生レベルに応じたゾーニングです。

例えば、原材料を受け入れる場所、下処理を行う場所、加熱・加工する場所、加熱後の食品を扱う場所、包装する場所、製品を保管する場所では、それぞれ汚染リスクが異なります。

原材料を扱う区域から、加熱後の食品を扱う区域へ細菌や異物が持ち込まれてしまえば、せっかく加熱工程で危害要因を低減しても、再び製品が汚染される可能性があります。

そこで、製造工程に応じて「汚染区域」「準清潔区域」「清潔区域」などの衛生区分を設定し、必要に応じて壁や前室、建具などで区画します。

ただし、細かく部屋を分ければ分けるほど良いわけではありません。区画を増やせば、建設費だけでなく、扉の開閉、清掃、空調、差圧管理、従業員の移動といった運用負担も増えます。

重要なのは、「何となく清潔そうな工場をつくる」のではなく、製造工程上どこで衛生レベルを切り替える必要があるのかを明確にすることです。

3.人だけでなく「物」の動線まで考える

食品工場では、人の衛生管理が注目されがちです。しかし、汚染を持ち込むのは人だけではありません。

工場内では、原材料、包装資材、製品、廃棄物、台車、パレット、洗浄前後の器具など、多くの物が移動します。

ここで重要なのが、「どの状態の物を、どこまで持ち込んでよいのか」という考え方です。

段ボールは「清潔な物」とは考えない

分かりやすい例が段ボールです。段ボール箱は食品工場へ届くまでに、倉庫、トラックの荷台、荷捌き場、パレットなど、さまざまな環境を経由しています。

そのため、衛生レベルの高い区域では、外装段ボールをそのまま持ち込まない運用を行うことがあります。

例えば、原材料搬入 → 開梱室・前室 → 外装段ボールを除去 → 内袋や専用容器へ移す → 清潔側へ搬入、という流れです。

木製パレットや外部用台車についても同じ考え方ができます。外部用パレットから工場内部用パレットへ積み替える計画であれば、その場所も必要になります。

さらに、開梱した段ボールはその場からなくなるわけではありません。使用済み段ボールをどこへ一時保管し、どの経路から工場外へ搬出するのかまで考えて初めて動線計画が成立します。

食品工場では、「人をきれいにして入れる」だけでなく、「物をどの状態で入れるか」まで設計することが重要です。

4.空気にも「動線」がある

食品工場の動線というと、人や原材料、製品の移動を想像しがちです。しかし、もう一つ忘れてはいけないものがあります。空気です。

清潔度の高い区域へ、汚染度の高い区域の空気が流れ込めば、空気を介して汚染物質が持ち込まれる可能性があります。

国際的な食品衛生の基本原則であるCodexでも、換気システムについて、汚染された区域から清潔な区域へ空気が流れないように計画する考え方が示されています。

そのため食品工場では、必要に応じて、給気位置、排気位置、給気量と排気量、室間の圧力差、外気取入口の位置、フィルター性能、扉を開けたときの空気の流れなどを検討します。

例えば清潔区域の圧力を周囲より高くし、扉を開けた際に清潔区域から外側へ空気が流れるようにする方法があります。

ただし、すべての食品工場で高度な差圧管理が必要なわけではありません。求められる空気清浄度は、製造する食品や工程、製品が包装されているかどうかなどによって変わります。

重要なのは、「食品工場だから高性能フィルターを付ける」のではなく、どの工程を何から守りたいのかを考えることです。

5.設備は「正常に動いているとき」だけでなく、メンテナンス時まで考える

食品工場では、空調や製造設備そのものの性能と同じくらい重要なのがメンテナンスです。設計段階では正常運転時の状態だけを見てしまいがちですが、設備は必ず、点検する、清掃する、部品を交換する、故障するときが来ます。

このとき、衛生管理上の問題が起こらないかを考えておく必要があります。

フィルター交換時の動線も設計する

空調フィルターは、その代表例です。例えば清潔区域内でフィルター交換を行う計画になっている場合、汚れた使用済みフィルターを清潔区域へ取り出すことになります。

すると、「交換したフィルターをどこへ置くのか」「汚れたフィルターをどのルートから搬出するのか」「作業員はどこから入るのか」「交換作業によって清潔区域を汚染しないか」という問題が生じます。

そこで、工場によっては衛生区域の外側にメンテナンススペースや機械室を設け、清潔区域へ入らずにフィルター交換や設備点検をできるようにします。

さらに、高い清浄度が必要な工程では、フィルター交換によって一時的に無ろ過状態にならないよう、設備を二系列化したり、交換中もろ過機能を維持できる構成を検討することがあります。

フィルターそのものの性能だけを比較するのではなく、「10年、20年使う間に、誰が、どこから、どのように交換するのか」まで考える。これが食品工場における設備設計の重要なポイントです。

天井裏や設備スペースへのアクセスも重要

同じことは、ダクトや配管、バルブ、照明などにも言えます。例えば清潔区域の天井に頻繁に開閉する点検口があれば、メンテナンスのたびに天井裏から埃などを持ち込む可能性があります。

可能であれば、衛生レベルの高い部屋に入らずに点検できるよう、機械室、メンテナンス通路、天井裏への外部アクセス、点検スペースなどを計画しておく方法もあります。

「設備が納まるか」ではなく、「設備を衛生的に維持できるか」まで考えることが大切です。

6.洗浄・排水しやすく、汚れを残さない建物にする

食品工場では、日常的に清掃や洗浄を行います。そのため仕上材を選ぶ際も、「汚れにくいか」だけではなく、「汚れたときにきちんと洗えるか」という視点が重要になります。

例えば床や壁では、水や洗剤・薬品に耐えられるか、清掃しやすいか、汚れがたまりにくいか、ひび割れや隙間が生じにくいかなどを検討します。

設備配置についても同様です。機械を壁ぎりぎりまで設置してしまえば、設備の裏側を清掃できない場合があります。

配管や架台、ケーブルラックなども、「取り付けられるか」だけでなく、その周囲を清掃できるか、埃や残渣がたまらないかという視点が必要です。

排水は「排水口を付ければよい」わけではない

水を使う食品工場では、排水計画も特に重要です。床に洗浄水が残れば、微生物や害虫の発生につながる可能性があります。

そこで、床勾配、排水溝の位置、排水能力、清掃方法、排水溝そのものの点検性などを製造設備と合わせて検討します。

また、排水溝が衛生レベルの異なる区域を不用意につないでしまえば、汚染リスクを生む可能性があります。そのため、空気と同じように、「水がどこからどこへ流れるのか」を考えて計画することが重要です。

7.結露・温湿度は断熱材だけでは解決できない

食品工場では、冷蔵・冷凍設備や加熱・蒸気を使う工程によって、大きな温度差や湿度差が発生することがあります。そこで問題になりやすいのが結露です。

例えば、天井、ダクトや配管表面、冷蔵庫周辺の壁への結露や、結露水の製品・設備への落下といった問題です。

食品衛生上、結露水が食品へ落下するような状態は避けなければなりません。

そのため食品工場では、単に断熱材を厚くするだけではなく、断熱、防湿、空調、換気、室間差圧、建具、前室、蒸気発生量などを合わせて考える必要があります。

例えば冷蔵室の扉を開けた瞬間に暖かく湿った空気が大量に流入すれば、断熱性能が十分でも結露する可能性があります。

食品工場では、「壁の仕様」ではなく「熱・湿気・空気がどう動くか」まで考えることが重要です。

8.衛生管理は建物の外側から始まっている

食品工場では、建物内部だけをきれいにすればよいわけではありません。虫、鳥、ねずみ、ほこりなどの侵入を防ぐためには、敷地や建物周囲の計画も重要です。

Codexの食品衛生一般原則でも、食品施設周辺のランドスケープは、害虫を引き寄せたり、潜伏場所をつくったりしないよう計画することが示されています。

建物際に植栽を設けないという考え方

一般的な建物では、外観を良くするために外壁近くへ低木や植栽を配置することがあります。しかし食品工場では、植物が虫や小動物の生息場所となり、建物への侵入リスクを高める可能性があります。

そのため、建物際にはできるだけ植栽を設けず、コンクリートや舗装で仕上げる、外壁周囲を点検できるようにする、雑草が繁茂しにくくする、水たまりをつくらないといった計画も有効です。

植栽自体が問題なのではなく、「食品工場の建物際に、害虫などが潜みやすい環境をつくらない」ことがポイントです。

外気取入口の周囲にも注意する

外気取入口の位置も重要です。例えばそのすぐ近くに、ゴミ置場、排気口、排水処理設備、トラックのアイドリング場所、粉塵や臭気が発生する設備などがあれば、外気とともに汚染物質を取り込む可能性があります。

外気取入口は図面上では小さな設備に見えますが、「工場がどこから空気を吸っているのか」という視点で配置を検討する必要があります。

食品工場では、建物の外壁を境界として衛生管理が始まるわけではありません。敷地に入った時点から、食品への汚染リスクを考える。これも食品工場計画の重要な考え方です。

食品工場は「清掃するとき」「壊れたとき」まで設計する

食品工場の設計で重要なのは、高価な設備をたくさん導入することではありません。

必要なのは、製造する食品と工程を理解し、何が汚染源になるのか、どこからどこへ人が移動するのか、原材料や包装資材をどう搬入するのか、段ボールや廃棄物をどう搬出するのか、空気と水がどちらへ流れるのか、どのように清掃するのか、設備をどのように点検・交換するのかを一つずつ考えていくことです。

完成直後のきれいな状態だけを見ていては、良い食品工場にはなりません。

例えば10年後に空調フィルターを交換するとき。製造設備の裏側を毎日洗浄するとき。段ボールを開梱して廃棄するとき。排水溝を清掃するとき。設備が故障して作業員が修理に入るとき。

そうした日常の場面まで想像して、「衛生管理を続けやすい建物になっているか」を考えることが重要です。

まとめ|HACCPを「運用しやすい工場」をつくる

HACCP対応とは、特定の材料や設備を使用すれば完了するものではありません。

食品工場では、製造工程と衛生管理を理解したうえで、衛生レベルに応じたゾーニング、人・原材料・製品・廃棄物の動線、段ボールやパレットなどの持込み管理、空気清浄度・給排気・差圧、フィルター交換などのメンテナンス動線、清掃しやすい仕上げと設備配置、排水・結露・温湿度対策、防虫・防鼠を意識した外構計画まで検討することが重要です。

そして、これらは建物が完成してから考えるのではなく、計画段階から検討した方が合理的です。

食品工場を新築・建替えするときには、建築・製造設備・空調設備・給排水設備・衛生管理を別々に考えず、できるだけ早い段階から一緒に計画することが、使いやすく衛生管理しやすい工場につながります。

沢田工務店では、工場・倉庫の建設において、建物だけではなく製造工程や設備配置、動線を確認しながら計画を進めています。食品工場の新築・建替えをご検討の際は、土地探しや基本計画の段階からお気軽にご相談ください。